「UFO学園の秘密」35点(100点満点中)
2015年/日本/カラー/ 配給:日活 配給協力:東京テアトル 製作総指揮・原案:大川隆法 監督:今掛勇 脚本:「UFO学園の秘密」シナリオプロジェクト 声の出演:逢坂良太 瀬戸麻沙美 柿原徹也 金元寿子

後半の変わりようが凄い

新興宗教団体が長編アニメ映画を(ときには実写映画も)定期的に作り、公開する。それも「幸福の科学」のそれは、きわめて特徴的な内容だから、私も機会があれば見るようにしている。しかし何本見ても、この一連の作品がどういう人々に向けたものなのかわかりかねる。

全寮制のナスカ学園、高校2年生のレイ(声:逢坂良太)たち仲良し5人組は、宇宙人によるアブダクションのうわさを聞きつける。独自の研究と取材で悪の異星人の存在を確信した彼らは、その危険性を学園に知らせようとするが……。

エンドロールにはたくさんの関連企業が記載され、うちの近所のお医者さんも毎回名を連ねている。優しい先生だと評判だが、ちょっとかかりたくなかったりもする。それはまあいいとして、これだけの作品を定期的に製作するだけの額を集めるのだからばかにはできない。聞けば予算もなかなかのもので、実際上映時間も125分。アニメとしては、堂々たる大作の雰囲気がある。

キャラクターデザインにあくの強さはなく万人が好みそうだし「「UFO学園の秘密」シナリオプロジェクト」なる名前で執筆された脚本も、小学生から興味を持てそうな要素満載の面白いものだ。

だが、実際この映画を見るのは、ほとんど教団の信者だけだろう。このギャップを、いち映画好きとしてはもったいないねと感じる。アニメーションの出来もよく、それなりの製作&劇場リソースを使いながら、普通の人々にすすめられない映画というのはいかにもいびつである。

具体的には、後半の教義丸だしな説教的展開がそれにあたる。そこまで、普通に楽しい学園オカルトSFだったのに、急に宗教押しつけ映画になる。これについてこいというのは無理だ。白金のゴージャスな建物と同じで、玄関をくぐるハードルがあまりに高すぎる。

こんなことをせずとも、おもしろい映画を作り、その根底に彼らの道徳感を忍ばせる程度にしておけば、結果的に多くの新規信者の窓口にもなるだろうにと思う。「エリートってのは世のために働く奴のことだ」など、なかなか説得力を感じさせる部分も多いのだから。

ちなみに私は別に幸福の科学の支持者でもなんでもないので、彼らが得をしようが損をしようが知ったことではない。

それよりも、個人的にはネット民が喜ぶ架空戦記など作ればウケるのではないかと思うのだがいかがだろう。

尖閣諸島にせめこんだ中国軍の快進撃と、トボけて高みの見物を決め込むオバマを前に、安保法制も日米安保条約も無力と知り絶望する日本人。陰で握手して笑う中米の最高指導者たち。尽くしてきた恋人アメリカにふられ、涙目の安倍首相。そこに突如現れたエル・カンターレ(山本太郎)が日本を救う──なんてストーリーを、リアリティあふれる軍事スペクタクルとしてぜひ作ってほしい。

何しろそういうものは、製作委員会放式では絶対に作れない。自由に動かせる金と製作実績を持っている彼らならできる。その際には当サイトも真っ先に試写会に出かけ、世間に知らせるべくできる限りのお手伝いをするとしよう。



連絡は前田有一(webmaster@maeda-y.com 映画批評家)まで
©2003 by Yuichi Maeda. All rights reserved.