「パージ:アナーキー」80点(100点満点中)
監督:ジェームズ・デモナコ 出演:フランク・グリロ カーメン・イジョゴ ザック・ギルフォード

パージの本質が見えてきた続編

支持者が信じていることと政治家の本音が正反対というのはよくあることである。今の日本でも「アベノミクスは消費税増税さえなければ成功したんだ」などとズレた意見をよく聞くが、冷静に見れば増税こそアベノミクス定食のメインディッシュである。米国に倣った格差拡大=富の逆再分配が目的の政策なのだから当然だが、そこに気づかせないためにプロパガンダ技術というものがある。かくして、もっとも政策の犠牲者になる人たちが、なぜか一番の熱心な支持者になるという不可思議現象が起こる。

年に一夜限り、あらゆる犯罪が合法となるパージ法。そんな近未来のアメリカで、鍛え抜かれた肉体を持つレオ(フランク・グリロ)は完全武装でその夜を迎えた。彼は改造した防弾使用のマスタングを駆り、悲壮なる表情でパージの夜に発つ。

このシリーズの世界観の最大の特徴であるパージ法も、まさにアベノミクスと同じである。大勢が信じる「目的」と、為政者側の考える「目的」は真逆であり、強力なプロパガンダで国民を洗脳することで真相を隠している。前作含め、この2本の映画が言いたかったのは、要するにそういうことだ。

この二つの映画の関係はよく計算されていて、2週前に公開されたばかりの前作をみてからこの2作目を見ると、誰もがだまされる要素が一つある。

前作を見た当初の私は、なぜこんなに魅力的な設定アイデアがあるのに、それをいかさないゾンビアクションのようなものを作るのか、一番面白い社会実験的な側面を強調しないのだろうかと不思議に思っていた。

ところがそれにはちゃんと訳があった。

つまり、この2作目を見れば注意深い観客にはパージ法の本質が見えてくるという仕組みである。と同時に、これはフィクションでも何でもないという、とんでもない真相にも気づくかもしれない。

──パージ法が実際に施行されたらどうなるかなあ、日本だったらどうだろうなあ。

そんなことを考えていた観客を、監督はにやにや笑いながら見ていたことだろう。

多くの人たちは、パージによって貧乏人が、不当に儲けている金持ちに対して鬱憤をはらす、そんな「世直し効果」を期待するはずだ。それによって守銭奴たちも無茶をしなくなり、世の中がよくなるはずだと。

はたして本当にそうだろうか。是非考えてみてほしい。

フランク・グリロ演じる悲しき主人公が、どうしても見逃すことができず、パージの夜に取り残された弱きものたちを引き連れ、守り抜こうとする姿は文句なしに恰好いい。

かつて大切なものを奪われた、もはや未来を捨てた男が、彼らの未来を守っている。このヒロイックな構図に、誰もが熱くなり、共感して見ることができるだろう。そのうえで、前述したテーマの奥深さも、じっくり考え読み説くことができる。

単純に見えてそうではない。見えているものと本質が異なる、そういうことに気づくことができる佳作といえる。今の世に不満を持つ人々にとって、これ以上痛快な作品はないだろう。



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