「寄生獣 完結編」55点(100点満点中)
監督:山崎貴 出演:染谷将太 深津絵里

よく盛り返した

期待をやや裏切る出来映えだった前編公開から5か月。早くも登場する完結編は、スタッフの頑張りによってかなかなかの盛り返しを見せた。

新一(染谷将太)は、広川市長(北村一輝)率いるパラサイトたちの組織だった動きに、ミギー(阿部サダヲ)とともに抗っていた。だがそのブレーンたる田宮良子(深津絵里)は、人間の子を出産、育児する流れの中で、人類との共存を模索していた。

この後編では、原作同様「寄生獣」の真の正体が明らかになる。現実世界へとつながるその哲学的なテーマと、ドラマチックな最終戦闘への流れをいかに盛り上げることができるかが、本作最大の期待ポイントといえる。

そして、それについては前作の際に指摘した問題点、シンイチとミギーの関係性の描写不足が重き足かせとなって、この後編にも悪影響を残している。橋本愛の、母性を感じさせない役作りもさらに足を引っ張る。

こうした前作に引き続いてのマイナス部分に加え、各見せ場の演出に詰めの甘い箇所がみられ、原作をほぼなぞったストーリーながら満足度は多いに下がるといわざるを得ない。

たとえば、屋上での腕枕場面などは、本来もっと感動を呼び起こす効果があるはずだが、画面の外にいるであろう「敵」の安否をはっきりさせていないがために、未読者には、いつ彼らがそいつに襲われるのではと気になって没頭できない。ほんの一瞬でも、決着を印象づけるカットを入れればすむことなのにと、もったいない思いである。

最強のパラサイト・後藤を演じた浅野忠信は見事な強敵オーラをかもしだしているものの、彼との決戦シークエンスにおける山崎貴監督の盛り上げ方が弱いため、いまいち煮えきらない。

原作を読めば、たとえば後藤と三木の関係が明かされるところとか、ミギーのプランBとか、市役所包囲作戦の斬新さとか、仰天するようなアイデアがたくさんあるのに、それらを淡々と流してしまうのはどうしたものか。

なにやら筋を追うのに精一杯で、抑揚をつけるところまで至っていない。監督はじめスタッフみな売れっ子で忙しいのだろうかと心配になってしまう荒っぽさである。本来の実力はこんなものではないだろう。

ガレキの設定変更はなるほど面白いが、直前の伏線があからさまで台無し。むしろここは何も説明しなくてもいいアイデアだった。

田宮良子のクライマックスだけはそこそこ泣かせるだけに、この各所の詰めの甘さがなんとも惜しい。

ただ、私がそれでも山崎監督を称えたいのは、観客の多くが意表を突かれてるであろう橋本愛の例のシーンである。

前編公開時の批評で、あれだけきつく念を押しておいたことが功を奏したか、この場面では彼女は予想外の大サービス。女優として最低限のプライドを見せた。

描写も丁寧で時間も長い。正直、さすがの私もここまでやるとは思わなかった。柔らかなモヘアのニットも役柄に似合っていたし、その下の細い肩、真っ白なバスト、おそるおそる受け入れる太股の表情など、見事な表現力である。

人気者の彼女に、ここまでさせた山崎監督の男気については、日本一手厳しいといわれるこのサイトにおいても無条件でほめ称えるほかはない。

結果、「寄生獣 完結編」は土俵際でなんとかふんばり、入場料を払ってみるに値する二部作として完結をみた。前編の出来映えからしたら、大変な盛り返しと評価してよいであろう。シンイチ同様、にんげん諦めなければなんとかなる見本である。



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