「ベイマックス」55点(100点満点中)
監督:ドン・ホール 声の出演:ライアン・ポッター スコット・アツィット

大人の気晴らしでしかない

「アナと雪の女王」が空前の代ヒットを記録したディズニーアニメーションの、注目された次回作「ベイマックス」は、海外市場で群を抜いた興収を記録した日本に感謝するかのごとき、日本推しの内容である。

14歳のヒロ(声:ライアン・ポッター)は、愛するキャスおばさんのもと、兄のタダシ(声:ダニエル・ヘニー)と幸せに暮らしていた。ヒロには天才的な科学の才能があり、兄の通う大学の研究室でも仲間たちの研究に目を輝かせていた。ところがあるときタダシの身に大変なことが起こり、彼の運命は一変する。

日本スタッフ主導の主題歌推しプロモーションでアナ雪が大ヒットしたため、個人的には「ベイマックス」の宣伝戦略に注目していたが、意外なほどにアメコミ色を消した宣伝に再び驚かされることになった

「ベイマックス」にはもともとアメコミ原作があり、ディズニーがマーベルコミックスを子会社にしたからこそ立ち上がった企画である。

実際みてみれば、中盤以降はまさにアメコミヒーロー映画そのもの。きっと日本の予告編をみて「姉妹愛を描いた「アナ雪」の男兄弟版」の感動ドラマを期待した人は拍子抜けというか、戸惑うことになるだろう。

おそらく後半の単調なバトルものを前面に出していたらここまでのヒットは望めなかっただろうからプロモーションとしては再び大勝利ということになるが、観客の満足感はアナ雪とは比較になるまい。曲がりなりにもあちらはあの主題歌しか見どころがないような映画であり、そこを推すのは正論でもあった。

だが本作のプロモーション内容は実際の作品の中身のポイントとは著しく異なる。ENTERを押したら別の有料サイトに誘導される騙しリンクみたいなものである。長期的には観客の信頼を損ねる行為で、注意が必要であろう。

さて、本作の舞台はサンフランソウキョウということで、日本とサンフランシスコの風景を合体させた世界観である。餃子専門店や中央線らしき高架線、そこにサンフランシスコ名物の路面電車がクロスオーバーする。ふしぎな……というよりどこか食い合わせの悪いビジュアルである。

もともと東京が先にあり、組み合わせ先の都市をあとから決めたそうだが、ほかに適切なところはなかったのかと一瞬思う。だが、あいかわらずの徹底したディテール描写で、日本人、とくに東京人がみれば多くの発見を楽しめるだろう。

次に物語について。私はこれを、あまり子供に見せたいものではないなと考える。主人公が兄の不審死なる重い荷を背負わされながら、大した苦労もなくハッピーエンドに突き進む能天気さがその理由だ。

ディズニーアニメに何を言ってるんだとの声もあろうが、今回は特に人生なめすぎというか、人の苦労をなんだと思っているんだとうんざりさせられた。

弟が大学に赴き、そこで兄や仲間たちなど研究している学生たちをみて憧れる展開はとてもよい。これから大学を目指すであろう少年たちに、大学ってこんなに楽しいんだと思わせてくれる映画は貴重である。

だが、特急電車に乗るがとごとく、苦労なしに好きなものを発明・制作し、目的を達成するのはいかがなものか。テンポはいいが、これでは子供たちは何も考える暇がないし、勉学へのモチベーションも高まらない。苦労嫌いで受け身のディズニー映画ファンを再生産するだけである。それも彼らには正義かもしれないが。

つらい目に合った少年がヒーローになり活躍する。そんな男の子が喜ぶ妄想を映画にするのは構わないが、あまりに能天気に実現し、賛美するだけの内容では、結局暇つぶし以外の何物でもない。子供たち用にはスルーして、アニメ好きの大人が、気晴らし程度にみる用途が望ましいであろう。



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