「バンクーバーの朝日」35点(100点満点中)
監督:石井裕也 出演:妻夫木聡 亀梨和也

これまた移民ドラマ

フジテレビ系の映画が、クライマックスで「朝日頑張れ」を連発する映画を作る。タイミングを合わせたわけではあるまいが、なんともシュールな光景である。

戦前のカナダ、バンクーバー。白人社会から差別され、きつい肉体労働に従事する日本からの移民にとって、野球チーム「バンクーバー朝日」の活躍は希望を感じさせるものだった。もっとも肝心の試合では体格に勝る現地の白人チームには及ばなかったが、レジー笠原(妻夫木聡)やケイ北本(勝地涼)ら若き選手たちは、機動力をいかしたチームプレイでやがて快進撃を開始するのだった。

原作はなく、感動の史実を元にオリジナルストーリーを組み立てた野球映画というわけだが、いろいろと問題が多い。

まず野球シーンについて。野球とは広いフィールドで悠々と行うスポーツだが、映画の場合は大胆に寄ってスピード感を出していかないといけない。だが、本作は過去の幾多の野球映画を研究した跡が見えず、野球経験者を多用しているわりには素人っぽい動きばかり感じさせる。

体格で白人たちに劣る日本人チームが、バントの多用で勝ち進む展開にしても、昨日まで弱小だったチームがそんな付け焼刃な戦法一つで勝ち進めるわけがない。そういうことは競技人口の多い野球の場合、多くの観客が感じてしまうところ。

敵がよほどバント慣れしていない事情とか、そうした戦術をバカにしていたとか、プライドからくるバント対応の遅れのような背景を描かなくてはいけない。史実だから説明不要ということにはならない。映画上のリアリティを出さないといけない。

シナリオ面では、せっかく現代日本との唯一の共通事項である「移民」問題を扱っているのに、そこをリンクさせない点も残念。

まず、興味深いことにこの映画における日本人は移民側である。これを見てもわかるとおり、移民問題とは移民側にとっては非常にシンプル。すなわち母国にいるより儲かるということであり、多少虐げられようがそれでも利益があるからいくわけだ。だが来られる側にしてみれば、そのせいで労働単価は下がるし、労働者にとっては格差拡大の結果を生む死活問題となる。だから移民を喜ぶのは人件費を減らしたいブラック気質の経営者だけ。あらゆるところに対立関係を生みやすいシステムというわけだ。

現代の日本人は移民を受け入れる側であり、その視点からはこの映画の「バンクーバー朝日」は(主人公でありながら)悪役の立ち位置とならざるをえない。そこにこの映画の作り手たちは真っ先に気づかなくてはいけなかった。自分たちが悪役であることに登場人物たちがしっかりと気づいてこそ、現地の人々と理解しあえる。

物語の落としどころが相互理解、友好ということならば、序盤は被差別側としての日本人がアンチ白人根性で一丸となる形でいい。だが彼ら特有のフェアネス精神や鷹揚さに気づいた日本人は、一度自らを反省し、変わっていかなくてはいけない。そのプロセスがないと、現代日本人を感動させる物語にはなりえない。

それがいまどきの移民ネタ映画のあるべき形なのだということに気づいていれば、この映画の物語に普遍性と公平性が加わり、ぐんとよくなっただろう。



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