「ゴーン・ガール」70点(100点満点中)
監督:デヴィッド・フィンチャー 出演:ベン・アフレック ロザムンド・パイク

現状にストレスを覚えている女性向けミステリ

公開中の「フューリー」(14年、米)と並び、オスカー候補の筆頭とされる「ゴーン・ガール」は、結末ドッキリ系をとらせたら右にでるものがいないデヴィッド・フィンチャー監督らしい軽快な語り口で、大人の男女関係を知る誰もが楽しめるミステリに仕上がった。

ミズーリ州の片田舎に暮らすニック・ダン(ベン・アフレック)は、結婚5周年の記念日に妻エイミー(ロザムンド・パイク)が失踪したことを知る。彼女は有名な作家の娘でもあり、事件性が強いと警察もすぐに動き出す。ダンはすすめられるがままに記者会見を開き、情報提供を呼びかけるが、なぜか自分に不利な証拠が見つかり、やがて世間からは妻殺害の容疑者扱いされてしまう。

ネタバレ地雷だらけなのでストーリー紹介はここまで。今時のアメリカ社会の写し鏡のような要素満載で、様々な角度から楽しめるスリラーになっている。

ワイドショーによるリンチの構図、暴走するゴシップエンタテイメント、真実よりも利益を追求する弁護士……そこかしこに現実を下敷きにした設定の数々が見られるので、アメリカ社会に興味がある人にはたまらないだろう。

一方、そうではない観客にも、ミステリとしてなかなか良くできているので飽きさせない。

とくに褒めたいのは、やはり売り物である大逆転の展開。これほど突飛な展開をたどる、誰がどこから見てもアチラ側の世界の住人たちばかりがでてくると思っていたストーリーが、結末を迎えるころには私たちの観客席にまで降りてくるダイナミズムは鮮やかというほかない。

そもそも観客は、この映画を、それこそ言いたい放題の事件ワイドショーでも楽しむようにみているはずだ。自分には無縁の世界の話と思っていたダン夫妻の物語が、まさしく自分とその横で見ているパートナーとの関係とそう違わないことを最後に突きつけられ、衝撃を受ける。

それが「ゴーン・ガール」最大の魅力といってよい。

個人的なおすすめは、フィンチャー自ら手がけた特報だけをみてから本編に挑むやり方だ。予告編を作りたがる監督は少ないが、名曲「SHE」が流れるこの1分48秒間の特報予告編のできはすばらしく、必見といえる。

そして映画を見終わったならば、その特報で流れる「SHE」が、ある箇所を省略したショートバージョンだという、当サイト超映画批評による指摘をぜひ思い出してほしい。

そして、オリジナルからいったいフィンチャーがどの部分を削ったのか、調べてみるといい。この監督の遊び心と大胆さに、あなたはきっと唸ることになるだろう。(くれぐれも鑑賞後、にね)



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