「MIRACLE デビクロくんの恋と魔法」55点(100点満点中)
監督:犬童一心 出演:相葉雅紀 榮倉奈々

イブ専用映画

「MIRACLE デビクロくんの恋と魔法」は、恋愛映画の名手・犬童一心監督と、クリスマスソングの代名詞・山下達郎(音楽監修)、中村航(「100回泣くこと」ほか)の原作、そして相葉雅紀&榮倉奈々主演という、まさに対カップル完全武装によるクリスマス専用ラブストーリー。

漫画家の夢を持ちながら書店バイトでくすぶっている光(相葉雅紀)。そんな彼が偶然街で出会い、恋をした相手は自分とは不釣り合いなセレブで照明アーティストのソヨン(ハン・ヒョジュ)だった。そんな話を幼馴染でオブジェ作家の卵の杏奈(榮倉奈々)に相談すると、彼女は複雑な表情を見せつつも彼の恋に協力を申し出てくれるのだった。

クリスマスデート専用というコンセプトがこれだけはっきりしているのに、肝心のユーザーの動線への思いが至らない点が、本作のダメなところである。

まず目につくのは、誰もがかませ犬なのは百も承知の韓国美人との恋愛ごっこに時間を割きすぎな点。

演じるハン・ヒョジュ推しをしたい気持ちもわかるが、むしろここは、完全チョイ役のおたく男女の話とか、店長の孫の話、あるいは妊娠話を膨らませるべきところ。その上で、全体の時間をもっと減らすよう努力すればさらに良くなっただろう。

だいたいこれは、クリスマスイブにうぶなカップルが見る映画であり、2時間でも長いくらいだ。予約したディナーとかひとけのないところに移動するとか告白タイムとか、イブの男女にはやることがいっぱいあるのだ。コンセプト重視の企画なら、もっと彼らの動線、タイムラインというものを想定していただきたい。

逆に本作のいいところは、美男美女がサブにまわって、そうでない二人をメインに持ってきたところだ。とくにブサカワ、という形容詞が適切なのかはわからないがこの映画、榮倉奈々の魅力が大いに伝わってくる。

ノーメイクに近いぶっきらぼうな役柄だが、思いが伝わらないもどかしさ、そうした心情をつたえる表情など彼女は抜群にうまい。見ているこちらまで切なくなったし、同情心もわいてくる。平たくいうと、簡単に手玉に取られてしまった。佐々木希に取られるならば納得だが、榮倉奈々だとちょっと悔しい。

女性の方が背が高いラブコン状態なのもいい。ヒールを履いたり姿勢をのばしたり、そのあたりをよく理解して強調していた榮倉の努力も評価できる。ぶっきらぼうに見えるがそのじつ女性らしいヒロインを見事に演じている。なにしろ破れたセーターに泥だらけの手にノーメイクでも、完璧武装の韓国美人より魅力があるのだからすごい。見るからにオトコが気持ちよさそうなキス上手ぶりもいい。

彼女の少女時代を演じる子役の松本来夢も、よくもまあこんなミニ榮倉奈々がいたものだと驚かされるほど、女性としての共通した魅力を持っている。

ところで韓国美女といえば、このキャラクターのリアリティのなさはひどい。とくに泥酔したこの美人を一晩泊めて何もなしとか、そういう腐女子的ファンタジー展開にはげんなりである。男への反応、挙動もわざとらしいし、韓国語のやりとりすらできない元カレがでてきたり。おまえは顔さえいい男なら誰でもいいのかと思わずつっこむ余地が残る設定である。もう少し真面目に作り込んでほしい。

長身男勝り美人幼なじみとの恋という、属性重ねすぎでただでさえ笑える設定を、笑いに生かさない監督の生真面目なセンスはいただけないし、上記のような細部の詰めの甘さも残る。

肝心の山下達郎の「クリスマス・イブ」も、この若いキャストとは取り合わせが悪い。あの曲が似合うのはせいぜいアラフォーカップルだが、それでこのストーリーをやったらJAROに苦情がきてしまう。

それでも、榮倉奈々(&松本来夢)のヒロインがかわいらしいので楽しく見られる。不十分ではあるが、イブの初デートといった重要な用途にも使えることだろう。そんなカップルたちに幸運を祈ると共に、イブに本作を、とある映画評論家と見に行ってもいいという25歳以下の美人がいたら即座に連絡を求む。



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