「ヘラクレス」80点(100点満点中)
監督:ブレット・ラトナー 出演:ドウェイン・ジョンソン イアン・マクシェーン

男の子が学ぶべきものがある映画

ギリシャ神話に登場する英雄で、ゼウスと人間の女アルクメネの間に生まれたヘラクレス。その勇姿と英雄伝説は多くの映画で見ることができるが、今年は奇しくも2作品がほぼ同時期に公開される、ヘラクレスイヤーとなった。

並外れた戦闘力を持つヘラクレス(ドウェイン・ジョンソン)は、5人の仲間たちとともに傭兵稼業にいそしんでいた。やがて彼らはその強さを見込まれ、トラキア王の兵たちを鍛える任務に就く。

王道のギリシャ神話映画である「ザ・ヘラクレス」(レニー・ハーリン監督 公開中)に比べ、こちらはかなりの異色作。なにしろドウェイン・ジョンソン演じる主人公は「自称」英雄ヘラクレス。その無敵伝説でハッタリをきかせ、自分たちの生業である傭兵稼業の営業をしている男である。これではギリシャ神話ではなく、詐欺師の映画である。

ところがおもしろいもので、王道のギリシャ神話映画「ザ・ヘラクレス」の凡庸さにくらべ、こちらは抜群によく出来ている。

無駄な残酷ショットもなく、それどころか男の子育て映画として推奨できるほどにまっとうなテーマを持っている。

すなわち、男は出自など関係ない、男の人生とはなにをしたか、その行動次第で決まるというメッセージである。そしてさらに大事なことは、行動を起こすためには力が絶対に必要だと伝えていることだ。

いまの世の中には、ザ・綺麗ごとばかりがはびこっている。そんな、世界に一つだけの花的なメッセージとは対極にある、これぞ父親が息子に伝えたい本当の真実というもの。

この役を生涯のはまりやくと考え、並々ならぬ意気込みで演じるドウェイン・ジョンソンが映画を通じて伝えたいことも、おそらくそういうことなのだろう。

彼は長年、一見たわいもないファミリー向け映画への出演を続けているが、それにはどこか確固たる信念を感じさせる。そのためだけにあれほど見事な肉体を維持し続けている、そのストイックさを見ても明らかである。

とくに42歳でさらなるバルクアップを果たした本作は、過去最高のコンディションといってもいいほど。なによりそうした姿を見せ続けることで、子供たちのあこがれでい続ける、その思いこそがこの作品のテーマとリンクし、強い説得力となっている。

アカデミー賞とは無縁だが、尊敬に値する映画スター、生粋のエンターテナーといえるだろう。

英雄伝説の裏側・現実をみせるエンドロールのコミック映像の、なんとも誇らしく気持ちのいいことよ。利己的を絵に描いたようないまのアメリカ社会で、野心無く家族主義に徹する主人公のキャラクターは、誰もが自然にもり立てたくなる。

むなしい理想主義などとくさしたくはない、なんともすがすがしい映画である。



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