『やさしい嘘』70点(100点満点中)

過剰な演出が無い良質な感動ドラマだ

母娘3代の親子愛を描いた人間ドラマ。

グルジアの首都で、貧しいながらも幸せに暮らす祖母、母、娘の3代3人。祖母の唯一の楽しみは、パリで暮らす息子から定期的に届く手紙を、フランス語が堪能な孫娘に読んでもらうこと。そんなある日、その息子が交通事故死した知らせが届くが、母と娘は祖母にそれを伝えることができない。二人はやがて、手紙の続きを創作し始めるのだが……。

3人の女たちが、それぞれひとつずつ嘘をつく話だ。それは互いを思いやる「やさしい嘘」であり、その美しい心には心洗われる思いがする。大げさな演出はひとつもなく、静かにストーリーは進んでゆく。おかげでじっくりと、3名の役者のすばらしい演技を堪能することができる。祖母役の女優は、なんと85歳で映画デビューを飾った人。人生あきらめなければ夢はかなうというわけだ。

3人は常に仲良しというわけでもなく、小さないざこざはしょっちゅうだ。が、一見ケンカばかりしている彼女らの間に強い絆と深い愛が存在することが、見ている観客には徐々にわかってくる。嘘に嘘を重ねて限界がきても、ただその嘘のためにすべてをかけた二人の精神の気高さ。終盤、パリを訪れた3人の耳にクリスマスソングが聞こえるとき、深く、そして静かな感動が観客を襲う。

感情を表現するために、直接的なセリフを用いる代わりにただ歩くだけのワンショットを挿入する。そんな間接的な演出を用いるタイプの作品だが、これがなかなか絶妙で、それだけで充分だと感じさせる。グルジアの貧しい町並みで、人々が助け合って生きている姿は美しく、心安らぐ。希望と幸福感が満ち溢れた良質な作品だ。

また、「やさしい嘘」の良いところは、親子の思いやりのドラマに、うまいこと「若者の成長と巣立ち」というテーマを練りこんだところだ。これにより、結末がさらに引き締まった。

まとめとして「やさしい嘘」は、素朴だが人間味がある、劇中のグルジアの町そのものといった雰囲気のヒューマンドラマ。だれもが共感しやすいテーマの万人向けの小品で、これもまた今週のオススメだ。



連絡は前田有一(webmaster@maeda-y.com 映画批評家)まで
©2003 by Yuichi Maeda. All rights reserved.